E資格はディープラーニングに関する知識や技術を有していることを証明するエンジニア向けの資格です。資格取得を通じてディープラーニングに関する知識を体系的に学び、実装する力をつけることができます。しかし、「プログラミング経験やAI知識が少ない私には無理だ」「勉強する時間がない」なんて思っていませんか?実はそんなことはありません。プログラミング経験やAI知識がゼロでも、社会人として勤務しながらE資格(2023#1)に合格することができました。その秘訣をこのブログでお伝えしようと思います。
E資格概要
E資格は一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)がディープラーニングの理論を理解し、適切な手法を選択して実装する能力や知識を有しているかを認定する、AIエンジニア向けの資格です。
実際の試験では知識問題が問われますが、実装する能力を有していることを証明するためにJDLA認定プログラムを過去2年以内に修了していることが受験資格になっています。
受験資格 | JDLA認定プログラム試験日の過去2年以内に修了していること |
実施概要 | 試験時間:120分 知識問題(多肢選択式・100問程度) 各地の指定試験会場にて受験 |
試験会場 | 申し込み時に、希望会場を選択 |
出題範囲 | シラバスより、JDLA認定プログラム修了レベルの出題 |
受験費用 | 一般:33,000円(税込) 学生:22,000円(税込) 会員:27,500円(税込) |
認定プログラムの選び方
JDLA認定プログラムは非常に多種多様ですので、どれを選んでよいか悩んでしまうと思います。その場合、まずは自分が実現したいことをしっかりイメージして、受講目的を明確化させることが大切です。受講目的さえ決まってしまえば、ほとんどのプログラムは無料相談会を実施しているので、自分の目的やレベルにあったプログラムかどうか納得するまで相談して決めることができます。
私の場合、レベルはプログラミング経験やAI知識ゼロといった状態でしたので、いきなりE資格を取得することよりも、まずはAIに関する知識や実装力を身につけることが主な目的でした。そこで、私はキカガクの「AI人材育成長期コース」を受講することに決めました。私と同じようにプログラミング経験がない方には本コースから始めるのがオススメです。詳細はコチラで紹介していますので、ご興味ある方はチェックしてみてください。
試験出題範囲
E資格の試験勉強を始める前に、まず出題範囲を確認してみましょう。下表にE資格試験のシラバスを示しました。スクロールするのも大変なほど出題範囲が広いことがわかっていただけると思います。
尚、「AI人材育成長期コース」でカバーしている範囲を青字で示していますが、E資格試験の出題範囲を完全にカバーしているわけではないことがわかります。これは「AI人材育成長期コース」はAIを実装する力をつけることを目的としたコースであり、E資格取得を目的としたコースではないためです。
本コースでカバーできていない部分は、「E資格対策コース」で別途学習する必要があります(「AI人材育成長期コース」受講者は無料)。また、E資格受験資格は「E資格事前確認テスト」を全問正解することで得ることができます。
また、2022年にシラバスが改訂されました。新シラバスでは線形代数が出題されなくなった代わりに赤字で示した項目が追加されました。これにより出題範囲が大きく拡大されました。
応用数学 | |||
確率・統計 | 一般的な確率分布 | ベルヌーイ分布 | |
多項分布 | |||
ガウス分布 | |||
ベイズ則 | |||
情報理論 | 情報理論 | 情報量 | |
機械学習 | 機械学習の基礎 | 学習アルゴリズム | 教師あり学習 |
教師なし学習 | |||
半教師あり学習 | |||
転移学習 | |||
機械学習課題 | 能力、過剰適合、過小適合 | ||
次元の呪い | |||
ハイパーパラメータ | |||
検証集合 | 学習データ、検証データ、テストデータ | ||
ホールドアウト法 | |||
k-分割交差検証法 | |||
最尤推定 | 条件付き対数尤度と平均二乗誤差 | ||
深層学習の発展を促す課題 | 次元の呪い | ||
実用的な方法論 | 性能指標 | ||
ハイパーパラメータの選択 | 手動でのハイパーパラメータ調整 | ||
グリッドサーチ | |||
ランダムサーチ | |||
モデルに基づくハイパーパラメータの最適化 | |||
強化学習 | 方策勾配法 | ||
価値反復法 | |||
深層学習 | 順伝播型ネットワーク | 全結合型ニューラルネットワーク | |
損失関数 | 最尤推定による条件付き分布の学習 | ||
活性化関数 | シグモイド関数 | ||
Softmax関数 | |||
ReLU, Leaky ReLU | |||
tanh | |||
誤差逆伝播法およびその他の微分アルゴリズム | 計算グラフ | ||
微積分の連鎖率 | |||
誤差逆伝播のための連鎖率の再帰的な適用 | |||
シンボル間の微分 | |||
一般的な誤差逆伝播法 | |||
深層モデルのための正規化 | パラメータノルムペナルティ | L2パラメータ正則化 | |
L1正則化 | |||
データ集合の拡張 | Random Flip・Erace・Crop・Contrast等 | ||
ノイズに対する頑健性 | 出力目標へのノイズ注入 | ||
マルチタスク学習 | |||
早期終了 | |||
スパース表現 | |||
バギングやその他のアンサンブル手法 | |||
ドロップアウト | |||
深層モデルのための最適化 | 学習と純粋な最適化の差異 | バッチアルゴリズムとミニバッチアルゴリズム | |
基本的なアルゴリズム | 確率的勾配降下法 | ||
モメンタム | |||
パラメータの初期化戦略 | |||
適応的な額流率を持つアルゴリズム | AdaGrad | ||
RMSrop | |||
Adam | |||
最適化戦略とメタアルゴリズム | バッチ正規化 | ||
Layer正規化 | |||
Instance正規化 | |||
教師あり事前学習 | |||
畳み込みネットワーク | 畳み込み処理 | ||
プーリング | |||
回帰結合型ニューラルネットワークと再帰的ネットワーク | 回帰結合型のニューラルネットワーク | 回帰結合型ネットワークにおける勾配計算(BPTT) | |
双方向RNN | |||
Encoder-DecoderとSequence-to-Sequence | |||
長期依存性の課題 | |||
ゲート付きRNN | LSTM | ||
GRU | |||
長期依存性の最適化 | 勾配のクリッピング | ||
Attention | |||
生成モデル | 識別モデルと生成モデル | ||
オートエンコーダ | VAE | ||
VQ-VAE | |||
GAN | DCGAN | ||
Conditionnal GAN | |||
深層強化学習 | 深層強化学習のモデル | AlphaGo | |
A3C | |||
グラフニューラルネットワーク | グラフ畳み込み | ||
深層学習の適用方法 | 画像認識 | GoogleNet | |
ResNet | |||
WideResNet | |||
DenseNet | |||
EfficientNet | |||
画像の局在化・検知・セグメンテーション | Faster R-CNN | ||
YOLO | |||
SSD | |||
Mask R-CNN | |||
FCOS | |||
自然言語処理 | WordEmbedding | ||
Transformer | |||
BERT | |||
GPT-n | |||
Text to Speech | Wavenet | ||
音声処理 | サンプリング、短時間フーリエ変換、メル尺度 | ||
CTC | |||
スタイル変換 | pix2pix | ||
距離学習 | 2サンプルによる比較 | SiameseNet | |
3サンプルによる比較 | TripletLoss | ||
メタ学習 | 初期値の獲得 | MAML | |
深層学習の説明性 | 判断根拠の可視化 | Grad-CAM | |
モデルの近似 | LIME | ||
SHAP | |||
開発・運用環境 | ミドルウェア | 深層学習ライブラリ | |
エッジコンピューティング | 軽量なモデル | MobileNet | |
軽量化技術 | プルーニング | ||
蒸留 | |||
量子化 | |||
分散処理 | モデル並列 | ||
データ並列 | |||
アクセラレータ | デバイスによる高速化 | GPU | |
環境構築 | コンテナ型仮想化 | Docker |
試験に向けた学習方法
E資格試験の出題範囲がいかに膨大かわかっていただけたと思います。これだけ出題範囲が広いので、効率よく学習を進める必要があります。そこで、私の実体験を基にオススメな学習方法をお伝えします。
従来出題範囲の学習法
黒本
E資格の受験勉強の主軸となるのが「徹底攻略ディープラーニングE資格エンジニア問題集 第2版」通称「黒本」です。問題集ではありますが、解説が非常に丁寧であり、且つ体系的に学習できる構成になっていますので、参考書としても活用できます。
ただし、E資格試験と同等レベルの問題ばかりですので、内容はかなり難しいです。もっと初心者のための本はないかと思ってしまいますが、E資格の問題集として発売されているのは唯一「黒本」のみで、ほとんどの受験者がこれを用いて勉強しています。
最初は解答を見てでも良いので、まずは一周することを目指しましょう。
キカガク講座
「黒本」のみで学習を進められれば最も良いのですが、難易度が高く最初はかなりハードルが高いと思います。そこで「E資格対策コース」の動画を利用することをオススメします。
この動画は非常に分かりやすく簡潔な内容になっているの、概要を捉えるには非常に有用です。ただし、142動画もあるので全部視聴した後に「黒本」にとりかかると、最初の方に視聴した内容を忘れてしまいます。
そこで私がおすすめするのが動画を一つ視聴した後に「黒本」の対象部分の問題を解くことです。これを繰り返すことで抵抗感なく学習を進めることができます。ただ、動画と黒本が完全対応しているわけではないので、動画と黒本の対照表を作成しました。こちらも参考に学習を進めてください。
またキカガクでは「AI人材育成長期コース」受講者は他のコースを無料で受講でき、特に「画像処理特化コース」と「自然言語処理特化コース」はE試験資格対策にも非常に有用です。物体検出、セグメンテーション、Transformer、BERT、GPT-nを学習する際にはかなり活用しました。
新シラバス追加範囲の学習法
新シラバスで追加された項目は本試験でかなり出題されます。しかし、追加項目については「黒本」でカバーされておらず、「E資格対策コース」でもテキストのみとなっています。テキストは原著論文がベースとなっているため正確ですが、これだけで完全に理解することは難しく、自分で納得するまで調べながら学習を進めることになります。
そこで私が参考にしたサイトや参考書を以下でお伝えします(一部、従来出題範囲も含む)。
参考にしたサイト
- VAE
- VQ-VAE
- A3C
- Mask R-CNN
- FCOS
- WideResNet
- DenseNet
- EfficientNet
- Transformer
- GPT-n
- 音声処理(窓関数)
- メル尺度、MFCC
- MAML
- Grad-CAM
- SHAP
- Docker
参考書
ゼロから作るDeep Learning
通称「ゼロつく」です。ディープラーニングの基礎を学ぶ上で最も適した本かと思います。私は計算グラフを勉強する際に使用しました。
ゼロから作るDeep Learning②
「ゼロつく」の続編、通称「ゼロつく2」です。自然言語処理や時系列データ処理に焦点を当てた内容になっており、私はBPTTを理解する際に使用しました。
最強囲碁AI アルファ碁 解体新書
深層強化学習のAlpha Goに関する論文をかなり嚙み砕いてまとめられています。読み物としても非常に面白い内容です。
試験予約
修了者ナンバーの取得
「E資格事前確認テスト」を全問正解すると、E資格受験資格を取得したメールが届きます。そのメールにある「【E資格】試験前テスト完了フォーム」に必要事項を記入すると、E資格受験に必要な修了者ナンバーが発行されます。
フォームから申請後、3~5営業日以内に連絡がきます
予約・変更・キャンセル期間
予約期間: ~ 受験日前日の午後 11 時 59 分まで
※ だだし、予約は先着順です。座席数は限りがあるため、希望の会場・時間帯に受験するには、できる限り早めに予約してください。
予約変更・キャンセル期限:受験日時の 24 時間前まで
オンライン登録・予約の手順
公式サイトの手順に従い、オンライン登録・予約を進めてください。
試験当日の注意点
受験当日の流れ
受験日当日は、受付の手続きのため、試験開始時間の 15 分前までには会場に着く必要があります。遅刻した場合、受験は認められず、受験料の返金はされません。
受付時には、有効な本人確認書類 2 点の提示が必要です。学生プロモーションコードで申し込みした場合は必ず該当の学生証をご持参ください。詳細は、こちらをご参照ください。
また受験当日、試験会場での受付、受験、退出までの流れについて、必ずこちらの動画を確認しておいてください。実際にこの動画の通りの流れで進んで行きます。注意点としては参考書や問題集の閲覧はできないので、勉強をするなら試験会場に入るまでに済ませておいてください。
そもそも試験会場に着いた順に試験が開始されるので、勉強している時間もありませんでした
メモ用紙(ホワイトノート)について
受付時に、ホワイトノート(ラミネートしたメモ用紙)1枚とペン(速乾性の水性ペン)2本を貸しだされます。試験で計算が必要な場面がありますのでその際に利用します。試験中、ホワイトノートの余白が足りなくなった際や、ペンのインクが切れてしまった際には、手元のベルを鳴らして試験監督員を呼び出して交換してもらいます。また、パソコン画面上で一般電卓を使うことも可能です。
他の受験者の方もいるので、ベルは鳴らしにくい雰囲気でした。ホワイトノートは計画的に使いましょう。
フレームワークの選択
試験開始時、試験問題が表示される前に PyTorch または TensorFlow のいずれかを選択することになります。フレームワーク選択後の変更はできません。
また試験がパソコン上でどのように表示されるかや、解答方法や見直し方法の確認はこちらで事前に体験できます。少しクセがありますので、必ず体験しておいた方がよいです。
画面右上に「見直しのフラグ」があります。これをクリックしておくと、後で見直すことができます。最後まで解き終わると全問題の一覧が表示され、フラグをつけた問題は青いフラグで表示されます。マークした問題をクリックすればその問題に戻り、効率的に見直すことができます。
問題数が多いため、どんどん回答していかないと時間切れとなってしまいます。「見直しフラグ」を使えば、不安な問題を後回しにできるので時間を有効活用することができます。
試験問題の傾向
大部分が選択式で知識を問う問題になります。応用数学、機械学習、深層学習、開発環境の4分野からランダムに出題されるため、どれが何問出題されたのか把握することはできませんでしたが、深層学習が多く出題される傾向にありました。
基本的に「黒本」と同等レベルなので、やはり「黒本」を主軸に勉強することをオススメします。しかし、「黒本」にはない新シラバスで追加された項目も多く出題されますので、上記参考サイトなどを利用して勉強しておく必要はあります。
また論文の内容を読み解く問題も出題されますので、余裕があれば原著論文も確認しておいた方が良いかもしれません。尚、意外に実装に関する問題はそれほど多くありませんでした。
結果発表
試験結果は約3週間後にJDLAからメールで送付されてきました。プログラミング経験やAI知識ゼロからのスタートでしたが、上記勉強法で各分野で約8割正解することができました。合格基準については明らかにされていませんが、正解率が約6~7割程度ではないかと言われています。
尚、合格者には合格証の作成、合格認証ロゴの提供、オープンバッジの発行、および合格者コミュニティサイトへの案内の特典があります。
振り返って
プログラミング経験・AI知識ゼロの状態からE資格合格までの軌跡を下の表にまとめました。学習開始から約1年ほどかかっており、本格的にE資格の勉強を始めた11月から試験まではトータル150時間ほど勉強に費やしたと思います。
時間はかかりましたが、個人的には知識や技術をきちんと自分に落とし込んで、ある程度余裕をもちながらE資格試験に臨めたと思います。
より詳細な勉強時間と勉強スケジュールはコチラで紹介していますので、チェックしてみてください。
長期間の勉強になりますし、内容も非常に難しいので、途中でモチベーションが低下しそうになることもあります。私の場合はコミュニティサイトをうまく活用し、コンペイベントに参加して気分転換したり、E資格に合格した受講生の体験談を聞いて、「私もやるぞ!」とやる気を上げることができました。
年 | 月 | 学習内容 |
2022 | 1 | Python&機械学習入門コース受講 |
2 | AI人材長期コース開講 | |
3 | AI人材長期コース受講 | |
4 | AI人材長期コース受講 | |
5 | AI人材長期コース受講 | |
6 | AI人材長期コース受講 | |
7 | AI人材長期コース終了 | |
8 | ー | |
9 | コンペ参加 | |
10 | コンペ参加 | |
11 | E資格勉強開始 | |
12 | E資格勉強 | |
2023 | 1 | E資格勉強 |
2 | E資格試験受験 |
私の体験が少しでも皆様のお役に立てれれば嬉しく思います。これからも役立つ情報を随時アップしていきますので、一緒に頑張りましょう!
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